
高市政権の外国人政策の現状
高市政権が発足して以来、外国人政策を巡る議論は活発化しています。現政権のスタンスは、一見すると「規制強化」と「受け入れ継続」という、二つの異なる方向性を持っているように見えます。
外国人採用を検討されている企業の皆様は、この政策の「温度差」が、今後の採用戦略にどう影響するのかを正確に理解しておく必要があります。
進む「規制強化」の動きとは?
高市政権は、小野田紀美担当大臣を司令塔とし、外国人に関わる制度面の見直しを具体的に進めています。これらは主に、安全保障と社会秩序の維持を目的とした「規制」の動きです。
具体的な動きとしては、以下の点が挙げられます。
高市首相自身も所信表明演説で「毎年、文化等が違う人たちを国内に入れる政策はいったん見直す必要がある」と述べており、無秩序な受け入れには慎重な姿勢を示していることが分かります。
これは、欧米諸国における移民政策を巡る社会的混乱の報道を踏まえ、国内での反発を防ぐ意図もあると考えられます。
矛盾?受け入れ継続の背景にある事情
「規制」の動きが進む一方で、日本国内の外国人材の数は増え続けています。

- 在留外国人の増加:
- 昨年の在留外国人の数は、36万人増加し、今年も同程度の増加が見込まれています。
- このペースが続けば、約16年後には在留外国人が1,000万人を超えるという予測も出ており、これは現在の日本の人口の約10分の1に相当する規模です。
政府の人口戦略本部では、人口減少対策の一環として「秩序ある共生社会」の推進が掲げられています。これは、事実上、外国人材の受け入れを念頭に置いた政策であり、「規制」とは逆の方向性を示しています。
この「受け入れ継続」の流れを支えている最大の要因は、深刻な人手不足です。人口減少が進む日本では、特に労働集約型産業(介護、建設、農業など)において、国内労働者だけでは需要を満たせない状況が続いています。
外国人受け入れ政策が転換しにくい理由
高市政権が総量規制(受け入れ人数の上限設定)の是非を議論しつつも、具体的な受け入れ人数そのものに対する明確な削減方針を示しにくい背景には、複雑な経済的・構造的な要因が存在します。

制度がもたらす経済的な影響
外国人労働者を受け入れるための制度(技能実習、特定技能など)は、すでに日本社会のさまざまな主体に経済的な影響を及ぼし、巨大な経済圏を形成しています。

多岐にわたる関与主体:
技能実習制度などを例に見ると、「送り出し機関」「日本語学校」「監理団体」「受け入れ企業」「登録支援機関」といった、多くの組織が関与しています。
特に監理団体は、受け入れ企業から実習生1人あたり月額数万円の監理費を得ており、非営利組織でありながら、この制度の維持によって経済的な基盤を築いている側面があります。
経済活動の維持:
これらの組織の経済活動は、制度が続くことを前提として成り立っており、急な受け入れ停止や大幅な削減は、関連業界全体に大きな打撃を与えます。制度の透明性向上は課題とされつつも、その経済的な影響力を無視することは難しいのが実情です。
人手不足と賃金水準の構造的な問題
人手不足が叫ばれる一方で、労働集約型産業での賃金水準がなかなか上がらないという構造的な問題も、外国人受け入れ政策の転換を難しくしています。
経済学的な原則と現実の乖離:
経済学的には、人手不足が深刻であれば、企業間で労働者を確保するための競争が起こり、賃金が上昇するとされています。
しかし、実際には、賃金水準の低い労働集約型産業で慢性的な人手不足が続く一方、企業の利益率が高水準を維持しているケースが多く見られます。
外国人材の活用による人件費抑制:
技能実習制度などを通じた外国人労働者の活用は、結果として、企業が日本人労働者の賃上げ競争に参加することなく、人件費の上昇を抑えやすくなっている側面があるという分析もあります。
根本的な賃金水準の問題を解決しない限り、人手不足は解消せず、結果として外国人採用のニーズは構造的に残り続けることになります。このため、政府としても、外国人受け入れの枠を大幅に縮小する決定は、経済への影響を考慮して慎重にならざるを得ないのです。
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外国人材の増加予測と企業の課題
在留外国人が増加し、受け入れ制度が転換期を迎える中で、人事・採用担当者、経営者の皆様は、将来を見据えた採用計画を立てる必要があります。
16年後に在留外国人1000万人予測の衝撃
前述の通り、このままのペースで増加が続けば、約16年後には在留外国人が1,000万人を超える可能性があります。この数字が現実味を帯びることは、単に労働力の確保という話に留まらず、将来の日本社会の構造そのものを大きく変えることを意味します。
- 採用市場の「外国人材依存度」の高まり:
- 特に人手不足分野では、外国人材の確保が企業の存続に直結する重要な課題となります。
- 社内環境の「多文化共生」対応:
- 多様な文化背景を持つ社員との共生を前提とした、ハラスメント防止策、日本語教育、評価制度の見直しなどが必須になります。
- 定住・永住を見据えたキャリアプラン:
- 技能実習や留学後に特定技能、そして技術・人文知識・国際業務(技人国)などの在留資格へ移行し、長期滞在や永住を視野に入れる外国人材が増えています。企業は、彼らが日本でキャリアを築けるよう、長期的な視点で育成・定着支援を行う必要があります。
特定技能・育成就労制度の今後の見通し
外国人労働者を受け入れる主要な制度は、今、大きな転換期を迎えています。
| 制度名 | 現行制度 | 新制度(2027年開始予定) | 企業が意識すべきポイント |
| 技能実習制度 | 外国人技能実習制度 | 育成就労制度 | 目的が「国際貢献」から「人材の確保・育成」へと明確に変わります。 |
| 特定技能制度 | 特定技能制度 | 特定技能制度 | 制度は存続し、人手不足分野での即戦力として引き続き活用されます。 |
新たに始まる育成就労制度では、同一業種内での転籍(転職)が可能になります。これは、外国人労働者にとっては労働環境を選択する自由が生まれるメリットがある一方、企業にとっては人材流出のリスクが高まることを意味します。企業は、魅力的な労働環境の整備と適切な賃金水準の維持が、より一層重要になります。

透明化が求められる制度の構造
技能実習制度を巡っては、監理団体や送り出し機関が関与する構造の不透明性が長らく指摘されてきました。高市政権下でも、制度全体の透明性を向上させるための検証が求められています。
資金の流れの明確化:
監理団体や登録支援機関への費用負担が発生する構造が、適正な運用を妨げていないか。
人権侵害の防止:
外国人材が不当な扱いを受けないよう、制度設計と監督体制の強化が課題です。
企業が外国人採用を進める上では、コンプライアンスを徹底し、不透明な構造に関与しないことが、企業の信用を守る上で不可欠です。
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【企業の対策】外国人採用戦略の視点
高市政権の政策には「規制」と「受け入れ」の二面性が混在していますが、日本の構造的な人手不足という大前提が変わらない限り、外国人採用のニーズは今後も継続することが予想されます。企業は、この政策の不確実性を乗り越えるための戦略を立てる必要があります。

不安定な政策下での採用方針
政策が不安定な状況下で、企業が取るべき採用方針は以下の通りです。
外国人採用に関わる法律や制度は、今後も改正される可能性が高く、企業には最新情報を常に把握する姿勢が求められます。出入国管理法や育成就労制度、特定技能制度などについて、政府や関係機関の発表を定期的に確認し、迅速に対応できる体制を整えることが重要です。また、在留資格の不正取得や不法就労は厳しく取り締まられており、制度改正の趣旨を正しく理解したうえで、必要な手続きや要件を厳格に遵守することが、企業リスクを回避する最善策となります。
さらに、特定技能や育成就労に偏らず、技術・人文知識・国際業務(技人国)や経営・管理ビザなども視野に入れ、多様な在留資格を活用したバランスの取れた採用戦略を構築することが、安定的な人材確保につながります。
まとめ:企業が向き合うべき課題
高市政権の外国人政策は、安全保障を重視する「規制」と、経済を支えるための「受け入れ継続」という相反する側面を併せ持っています。人口減少という構造的課題を背景に、企業には法令遵守と正確な情報に基づく対応が不可欠です。外国人材を単なる労働力ではなく、長期的な仲間として育成・定着させるため、適正な労働環境整備や多文化共生への取り組みが求められています。
外国人採用はお気軽にご相談ください。
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