
2035年、貴社のホテルや旅館で働くスタッフが約3割も不足する。そんな未来を想像できるでしょうか。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の最新レポートで、日本の観光産業が世界で最も深刻な労働力不足に直面するという、衝撃的な予測が発表されました。これは遠い未来の話ではありません。
本記事では、この課題の背景を分かりやすく解説し、貴社が今から取り組める「外国人採用」という解決策を具体的にご紹介します。この記事を読めば、人手不足という大きな波を乗り越え、持続的に成長するためのヒントが見つかるはずです。

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2035年、日本の観光業は労働力が29%不足する未来
2025年10月1日、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は、ローマで開催された第25回グローバルサミットにおいて、観光産業の未来に関する重要なレポート「観光産業の未来の労働力」を発表しました。
このレポートは、今後の観光産業が世界的な雇用創出の原動力であり続ける一方で、私たちが今すぐ向き合うべき深刻な労働力不足について警鐘を鳴らしています。
WTTCが警鐘を鳴らす観光業の労働力不足
レポートによると、世界の観光産業は驚異的なペースで成長を続けています。2024年時点で世界の観光産業の雇用者数は3億5700万人にのぼり、2025年には3億7100万人に達する見込みです。
さらに、今後10年間で新たに9100万人もの雇用が創出されると予測されています。これは、世界で生まれる新しい仕事の実に3件に1件を観光産業が占めることを意味しており、その経済的なインパクトの大きさが伺えます。
しかし、この輝かしい成長予測の裏側で、深刻な問題が進行しています。それが「労働力不足」です。需要の急拡大に、働き手の供給が全く追いついていないのです。
世界で4300万人、日本が最も深刻な事態に
WTTCは、2035年には世界全体で4300万人を超える労働力が不足すると予測しています。これは、観光産業で必要とされる全人材のうち、実に16%(約6人に1人)が確保できない計算になります。
特に、自動化が難しい接客やサービス分野を担うホスピタリティ部門では、不足が860万人(18%)に達する見込みです。
スキル不足率(%) ※マイナスほど不足が大きい
- 日本-29%
- ギリシャ-27%
- ドイツ-26%
- 南アフリカ-23%
- EU-21%
- スペイン-20%
- イタリア-20%
- インド-17%
- 中国-16%
- フランス-16%
- 英国-16%
- サウジアラビア-14%
- ブラジル-14%
- ポーランド-13%
- メキシコ-10%
- オーストラリア-9%
- トルコ-9%
- 米国-8%
- カナダ-6%
- UAE-2%
出典:WTTC「観光産業の未来の労働力(Future of the Travel & Tourism Workforce)」
29%の不足とは、具体的にどういう状況でしょうか。例えば、4人必要なポジションのうち1人以上が常に不在である状態を意味します。これが業界全体で常態化すれば、ホテルの客室清掃が間に合わず稼働率を下げざるを得なくなったり、レストランで十分なサービスが提供できず顧客満足度が低下したりと、サービスの質の低下やビジネス機会の損失に直結します。
このまま対策を講じなければ、日本の「おもてなし」文化そのものが崩壊しかねない、非常に厳しい未来が待ち受けているのです。
なぜ観光業の人手不足はここまで深刻なのか?
日本の観光業が、なぜこれほどまでに深刻な人手不足に陥ると予測されているのでしょうか。その背景には、世界共通の課題と、日本特有の構造的な問題が複雑に絡み合っています。
パンデミックが招いた深刻な人材流出
新型コロナウイルスのパンデミックは、観光産業に未曾有の打撃を与えました。全世界で約7000万人もの雇用が失われ、多くの経験豊富な従業員が、より安定した他業種へとキャリアチェンジを余儀なくされました。
WTTC暫定CEOのグロリア・ゲバラ氏が指摘するように、観光需要が回復し再雇用の機会が生まれても、一度業界を離れた人材の多くは戻ってきていません。これは単に労働力が失われただけでなく、「観光業は不安定な業界だ」というイメージが定着してしまったことも大きな要因です。

日本の「労働年齢人口の減少」という構造問題
より根本的で深刻な問題が、日本の労働年齢人口(15歳〜64歳の働ける人の数)そのものが急激に減少しているという構造的な課題です。

日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少を続けており、今後もこの傾向は加速していきます。経済が成長し、インバウンド需要が増えてどれだけ求人を出しても、そもそも国内に働き手となる若者がいなければ、産業は成り立ちません。
人手不足を乗り越える3つの解決策とは
この困難な状況をただ悲観するのではなく、未来に向けた具体的なアクションを起こすことが求められています。WTTCのレポートでは、課題を克服するための具体的な施策が提示されました。
その中でも特に重要なのが、「人材育成」「テクノロジー投資」、そして「国際的な人材採用」の3つの柱です。
鍵を握る「人材育成」と「テクノロジー投資」
ゲバラ氏は、労働力不足克服の鍵として「人材育成とテクノロジー投資」を挙げました。
まず、AIや新しいデジタル技術を積極的に導入し、生産性を向上させることが急務です。例えば、予約管理や顧客対応を自動化するシステム、客室清掃を補助するロボットなどを活用することで、従業員はより付加価値の高い「おもてなし」に集中できるようになります。
同時に、従業員が働きながら学び続けられる環境を整えることも不可欠です。WTTCでは大学や専門学校と連携し、若者が明確なキャリアパスを描ける仕組みを構築しています。レポートでは「多くの成功したリーダーは、レストランのアルバイトなどエントリーレベルから始まり、トップ経営者にまで成長している」と述べられており、観光産業がキャリアアップを目指せる魅力的な場所であることを若者へ伝えていく重要性が強調されました。
国際的な人材採用の障壁を減らす動き
レポートでは、今後の具体策として「柔軟な労働政策を導入し、国際的な人材採用の障壁を減らす」ことが明確に提言されています。国内の労働力だけでは需要を賄えない以上、グローバルな視点で人材を確保していく、つまり「外国人採用」を本格化させることが、避けては通れない道筋なのです。
移民労働の制限が複雑さを増している現状を指摘しつつも、WTTCは官民が連携し、国際的な人材が活躍できる仕組みを整備する必要性を訴えています。

魅力的なキャリアパスと職場文化の醸成
人材を確保するだけでなく、長く定着してもらうことも同様に重要です。そのためには、明確な昇進ルートやリーダーシップ開発プログラムを用意し、従業員が将来に希望を持てる仕組みが必要です。
さらに、国籍や文化に関わらず、誰もが尊重され、公正に評価される「インクルーシブ(包括的)な職場文化」を醸成することも欠かせません。多様な人材が活躍できる環境こそが、結果的に企業の競争力を高めることに繋がります。

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外国人採用で今すぐ企業が取り組むべきこと
未来の労働力不足という大きな課題に対し、企業は今から何を備えるべきでしょうか。特に外国人採用を成功させるためには、計画的な準備が不可欠です。
多様な人材を受け入れるための環境整備
まず取り組むべきは、外国人材がスムーズに業務に馴染み、能力を最大限に発揮できるための受け入れ体制の構築です。
・多言語対応:業務マニュアルなどを、日本語だけでなく採用対象者の母国語で併記。
・宗教・文化への配慮:イスラム教徒向けの礼拝スペースの確保や、食事(ハラルなど)への配慮。
・生活サポート体制の構築:住居の契約や銀行口座の開設、役所での手続きなど、日本での生活立ち上げをサポートする体制を整える。
・コミュニケーションの活性化:日本人社員向けの異文化理解研修を実施したり、社内イベントを企画したりして、国籍を超えた交流の機会を作る。

こうした環境整備は、採用した人材の早期離職を防ぎ、エンゲージメントを高める上で極めて重要です。
自社に合う外国人材の採用ルートを確保する
次に、実際にどこで、どのようにして外国人材と出会うのか、という採用チャネルの確保です。
外国人材紹介サービスの活用:専門のエージェントに相談することで、自社のニーズに合った人材を効率的に探すことができます。在留資格に関する専門的なアドバイスを受けられるのも大きなメリットです。
海外の大学や日本語学校との連携:現地の教育機関と提携し、インターンシップの受け入れや合同説明会を実施することで、優秀な若手人材と早期に接点を持つことができます。
SNSや外国人向け求人サイトの活用:FacebookやLinkedInといったSNS、外国人専門の求人メディアを活用し、直接ターゲットにアプローチする方法も有効です。
どの方法が最適かは企業の規模や求める人材像によって異なります。複数のチャネルを組み合わせ、自社に合った採用戦略を構築していくことが成功の鍵となります。
まとめ
今回ご紹介したWTTCのレポートは、日本の観光産業が2035年に「労働力29%不足」という、極めて深刻な事態に直面する未来を明確に示しました。これは、もはや「いつか来るかもしれない危機」ではなく、「確実に来る未来」として捉え、今すぐ対策を始める必要があります。
国内の労働人口が減少していく中で、外国人採用はもはや選択肢の一つではなく、事業を継続・成長させるための必須戦略です。
もちろん、言語や文化の壁、煩雑な手続きなど、乗り越えるべきハードルは少なくありません。しかし、多様なバックグラウンドを持つ人材を受け入れることは、単なる労働力確保以上の価値を企業にもたらします。新しい視点やアイデアが生まれ、組織全体の活性化やイノベーション創出のきっかけとなるでしょう。