
人手不足の解消や事業のグローバル化に向け、外国人採用は多くの企業にとって欠かせない選択肢となっています。しかし、その採用プロセスには、見過ごすことのできない重大なリスクが潜んでいます。出入国在留管理庁が公表した最新データによれば、残念ながら入管法に違反し、日本から退去を命じられる外国人の数は依然として多く、その背景には「不法就労」の問題が色濃く存在します。
この記事では、出入国在留管理庁の「令和6年における入管法違反事件について」という公式データを基に、外国人採用におけるリスクのリアルな実態と、企業が取るべき具体的な対策を、専門的な視点から分かりやすく解説します。

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令和6年の入管法違反の最新動向
まずは、日本国内における入管法違反の全体像を把握しましょう。最新のデータは、外国人採用市場に潜むリスクの大きさを物語っています。

退去強制の対象者は1.8万人超え
令和6年中に、入管法違反を理由に「退去強制手続」または「出国命令手続」を執られた外国人は、合計18,908人に上りました。これは前年と比較して710人増加しており、違反の傾向が依然として続いていることを示しています。

驚くべきは、違反者がどこで摘発されているかです。令和6年の摘発箇所(1,320か所)のうち、最も多かったのは「居宅」(813か所)でした。これは、職場だけでなく、外国人が生活するごく普通の住宅で違反が発覚しているケースが多いことを意味します。
日本の法律やルールに違反した外国人を、強制的に国外へ退去させる手続きのことです。一度この処分を受けると、原則として5年間(場合によっては10年間または無期限)は日本への上陸が許可されません。
実際の摘発事例として、以下のようなケースが報告されています。
・偽造在留カードの情報から、埼玉県の一軒家で不法残留の中国人4名を摘発(令和6年2月)
・茨城県の集合住宅に不法残留者がいるとの情報から、インドネシア人29名を摘発(令和6年7月)

これらの事例は、組織的な違反行為や、コミュニティ単位での不法滞在が水面下で広がっている可能性を示唆しており、採用担当者は応募者の背景をより慎重に見極める必要があります。
国籍別の傾向:ベトナムが最多
入管法違反に至る外国人の背景を国籍別に見ていくと、特定の国や地域に傾向が集中していることが分かります。令和6年のデータによると、違反者数が最も多かったのはベトナムで、6,996人でした。これは、違反者全体の37.0%を占める突出した数字です。

順位 | 国籍・地域 | 人数 | 全体に占める割合 |
1位 | ベトナム | 6,996人 | 37.0% |
2位 | タイ | 3,400人 | 18.0% |
3位 | 中国 | 1,929人 | 10.2% |
4位 | インドネシア | 1,609人 | 8.5% |
5位 | フィリピン | 925人 | 4.9% |
上位5か国合計 | 14,859人 | 78.6% |
注目すべきは、これら上位5か国だけで、入管法違反者全体の78.6%を占めている点です。日本との地理的な近さや、技能実習生をはじめとする労働者の多さが背景にあると考えられます。

このデータは、あくまで統計上の傾向を示すものです。「特定の国籍の応募者はリスクが高い」と判断するためのものでは決してありません。多くの優秀な外国人材が、これらの国々から来日し、日本の産業を支えています。
重要なのは、国籍で応募者を判断するのではなく、すべての応募者に対して公平に、そして法律に則った厳格な本人確認・在留資格の確認を行うことです。この統計は、その確認作業の重要性を改めて認識するためのデータとしてご活用ください。
違反者の約76%が不法就労
入管法違反の中でも、企業にとって最も直接的なリスクとなるのが「不法就労」です。
令和6年の入管法違反者18,908人のうち、実に76.4%にあたる14,453人に不法就労の事実が認められました。これは、退去を命じられた外国人の4人に3人以上が、許可なく日本で働き、収入を得ていたという計算になります。
国籍・地域別 | 年 | ||
---|---|---|---|
令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | |
総数 | 6,355 (4,664) | 12,384 (8,928) | 14,453 (10,324) |
ベトナム | 2,522 (2,101) | 5,530 (4,608) | 6,200 (5,091) |
タイ | 751 (392) | 2,691 (1,332) | 3,171 (1,435) |
インドネシア | 535 (451) | 829 (687) | 1,463 (1,221) |
中国 | 1,360 (909) | 1,315 (844) | 1,296 (868) |
カンボジア | 142 (113) | 671 (486) | 751 (547) |
フィリピン | 442 (232) | 495 (272) | 586 (333) |
スリランカ | 93 (92) | 176 (171) | 251 (239) |
ネパール | 103 (78) | 228 (172) | 238 (182) |
ウズベキスタン | 48 (47) | 60 (60) | 90 (85) |
モンゴル | 65 (41) | 59 (43) | 77 (55) |
その他 | 294 (208) | 330 (253) | 330 (269) |
(注1)( )内は、男性で内数である。

違反が多い在留資格とは?
では、どのような背景を持つ外国人が、入管法違反に至りやすいのでしょうか。データから在留資格(ビザ)の傾向を読み解くことで、採用活動において特に注意を払うべきポイントが見えてきます。

「短期滞在」が全体の4割を占める
応募者が持つ「在留資格(ビザ)」に注目してみましょう。違反者が日本に滞在していた最後の在留資格を見ると、企業の採用活動における具体的な注意点が浮かび上がります。

- 短期滞在:7,679人 (全体の40.6%)
- 本来は観光、商用、親族訪問などが目的の在留資格で、原則として就労は一切認められていません。この資格で「働きたい」と応募してきた場合、その時点で不法就労を意図している可能性が極めて高いと言えます。
- 技能実習:4,684人 (24.8%)
- 日本の技術を母国に移転することを目的とした制度です。実習先企業での活動は認められていますが、失踪して別の企業で働けば不法就労となります。

3.特定活動:2,884人 (15.3%)
様々なケース(例:就職活動中の元留学生、難民申請中など)に与えられる資格です。個別に活動内容が指定されており、許可された範囲を超えて働くと違反になります。


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不法就労の実態:多発する勤務地と仕事内容
不法就労は、具体的にどのような場所で、どのような仕事で行われているのでしょうか。データを深掘りすることで、自社の事業エリアや業種に潜むリスクを具体的に把握することができます。

就労場所は関東圏、特に茨城県に集中
不法就労者が働いていた場所を都道府県別に見ると、非常に興味深い傾向が明らかになりました。
順位 | 就労場所 | 人数 |
1位 | 茨城県 | 3,452人 |
2位 | 千葉県 | 2,257人 |
3位 | 群馬県 | 1,799人 |
4位 | 埼玉県 | 1,438人 |
5位 | 愛知県 | 1,184人 |
注目すべきは、関東1都6県(東京、茨城、千葉、神奈川、埼玉、群馬、栃木)だけで全体の76.7%を占めている点です。特に農業が盛んな北関東エリアに集中しており、茨城県では不法就労者全体の約24%が確認されています。
職種は「建設」と「農業」が半数以上
では、どのような仕事で不法就労が行われているのでしょうか。男女別のデータを見てみましょう。
1,建設作業者:4,110人 (39.8%)
2,農業従事者:3,093人 (30.0%)
1,農業従事者:2,404人 (58.2%)
2,工員:543人 (13.2%)
男女ともに「農業」、そして男性では「建設」が突出して多くなっています。これらの業界は、慢性的な人手不足という深刻な課題を抱えており、労働力の需要が非常に高いことが背景にあると考えられます。
人材確保に苦労するあまり、採用時の本人確認プロセスが甘くなってしまい、結果として不法就労の温床となっている可能性も否定できません。
また、報酬(日額)のデータを見ると、最も多いのが「5千円超7千円以下」(7,319人)となっており、不法就労が低賃金労働と密接に結びついている厳しい現実も浮き彫りになっています。
入管法違反の結末は?年間7,698人が日本から送還
入管法に違反した外国人には、最終的に「退去強制」という重い処分が下され、日本から出国(送還)することを命じられます。これは、不法就労やその他の違反行為の最終的な結末です。

令和6年中に日本から送還された外国人は合計7,698人に上ります。このデータから、送還される外国人の背景や実情を読み解くことで、企業が外国人採用において留意すべき点がより明確になります。
送還者の国籍もベトナムが最多、違反者の傾向と一致
送還された外国人の国籍を見ると、入管法違反者全体の傾向とほぼ一致していることがわかります。
1位:ベトナム(3,123人、全体の40.6%)
2位:タイ(912人)
3位:中国(826人)
4位:インドネシア(628人)
5位:カンボジア(368人)
これら上位5か国で、送還者全体の76.1%を占めています。
送還の多くは自費出国、一方で凶悪犯罪による強制送還も
送還と一言でいっても、その方法は一様ではありません。
送還された7,698人のうち、実に88.4%にあたる6,808人は、本人が費用を負担する「自費出国」です。これは、違反を認めて自らの意思と費用で帰国するケースが大半であることを示しています。
一方で、全体の10.8%(830人)は、国が費用を負担する「国費送還」となっています。特に、その中でも護送官付きで送還されるケースは、本人が送還を拒否したり、逃亡の恐れがあったりする悪質な事案です。

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知らないでは済まされない!企業を罰する「不法就労助長罪」
ここまで不法就労のデータを見てきましたが、最も重要なのは「これが雇用主である企業にとっても他人事ではない」という点です。応募者本人に問題があったとしても、それを見抜けずに雇用してしまえば、企業側が罪に問われることになります。

不法就労助長罪とは?企業側の重いペナルティ
不法就労助長罪(ふほうしゅうろうじょちょうざい)とは、その名の通り、外国人の不法就労活動を助長した者(事業主や斡旋者など)に科される犯罪です。
具体的には、以下のような行為が該当します。
・オーバーステイ(不法残留)状態の外国人を、そうと知らずに雇用してしまう。
・観光目的の「短期滞在」など、就労が許可されていない外国人を雇用する。
・留学生を、許可されている「週28時間」を超えて働かせる。
・在留カードで許可された活動内容と異なる業務に従事させる(例:「技術・人文知識・国際業務」のビザを持つ人に、建設現場での単純作業をさせる)。
重要なのは、「不法就労であると知らなかった」という言い訳が原則として通用しない点です。在留カードを確認しなかったなど、企業側が当然払うべき注意を怠った(過失があった)と判断されれば、罪に問われる可能性があります。
違反した場合の罰則は、「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方」と非常に重く、法人の代表者や採用担当者個人が処罰の対象となることもあります。罰金や懲役だけでなく、企業の信用失墜、行政からの指導、他の外国人従業員の在留資格更新への悪影響など、経営に与えるダメージは計り知れません。
採用時に必ず確認すべ重要ポイント
では、どうすれば「うっかり不法就労助長罪」のリスクを回避できるのでしょうか。その鍵を握るのが、採用面接時における「在留カードの原本確認」です。これは、外国人採用を行う上での絶対的なルールです。
採用担当者必見
在留カード確認の徹底ガイド
面接時は在留カードの「原本」を必ず提示してもらいましょう。コピーでは偽造の見抜きが困難です。以下を指差し確認し、疑問があればその場で質問を。
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有効期限
右上の在留期間(満了日)が面接日時点で有効かを確認。期限切れは不法残留の可能性。
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就労制限の有無
「在留資格に基づく就労活動のみ可」「指定書により指定された就労活動のみ可」は原則就労可。「就労不可」は原則雇用不可(資格外活動許可がある場合を除く)。
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資格と業務の一致
「在留資格」(例:技術・人文知識・国際業務)と実際の職務内容を照合。専門職ビザで単純作業は不可。
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偽造防止要素
カードを傾けて左下「MOJ」の色変化、左上の花ホログラムの発光などをチェック。
※ 失効情報照会の結果は有効性の証明ではありません。IC読取アプリで券面とICの一致も確認を。
※ 当日交付のカード番号は反映待ちの場合があります(更新は原則翌日以降)。
まとめ
本記事では、出入国在留管理庁の最新データに基づき、外国人採用に潜む入管法違反、特に不法就労のリアルな実態と企業が負うべきリスクについて解説しました。
違反者の国籍や在留資格、就労する地域や職種には一定の傾向が見られます。しかし、採用担当者が最も重視すべきは、国籍等で応募者を判断するのではなく、すべての候補者に対し「在留カードの原本確認」を徹底するという基本動作です。「知らなかった」では済まされない重い罰則があることを、常に心に留めておく必要があります。
これらのリスクを正しく理解し、法令を遵守した採用プロセスを構築すること。それこそが、優秀な外国人材の獲得を成功させ、企業の持続的な成長へと繋げる唯一の道筋と言えるでしょう。
本記事の根拠データ:出入国在留管理庁「令和6年における入管法違反事件について」
この記事の監修者

大学卒業後、経営コンサルティング会社に入社し、企業の経営支援に携わる。その後、dodaを運営するパーソルキャリアにて、様々な方の転職支援に従事。その経験を活かし、株式会社JINにて、人材事業を開始。