
日本の労働力不足を補っている外国人労働者。現在、その殆どは中国・ベトナム・インドネシアなどアジア各国から来日した若者で占められています。しかし世界の状況は刻々と変化しており、近い将来、日本はアジアの若者から選ばれない国になると予想されているのです。今後ますます少子化が進む日本は、アフリカからの人材に頼らざるを得ない状況を迎えるでしょう。
日本から1万㎞以上遠く離れているアフリカ。文化も社会も人種も全く異なるアフリカの人々が日本で必要とされる背景には、「技能実習制度の限界」「2027年施行の育成就労制度で想定される問題」があります。その背景を探ってみました。

RIKUAJI SPECIAL
アフリカ人材を取り上げます
リクアジは普段、アジア人材をメインに扱っていますが、今回は 昨今注目される「アフリカ人材」にフォーカス。日本の労働力不足や制度変更の流れを踏まえ、 採用現場で押さえるべき要点を分かりやすく解説します。
技能実習制度の限界

1993年から始まった技能実習制度。その数は右肩上がりに推移し、2025年には47万人を超えたと報告されています。日本各地で人手不足解消の役目を担っている技能実習生たちは、前述の通りその殆どがアジアの若者たち。
しかし現場からは「アジアから人材確保ができなくなるのでは」と不安視する声が上がっています。

アジア人材から選ばれなくなった日本
円安は輸出産業・観光業などに有利で、外国人投資家による日本の不動産や株の投資も増えます。しかし、日本の賃金が割安となってしまうのは大きなデメリット。アジア諸国の若者たちの多くが「給料が低い日本で働くことに魅力を感じない」と考え始めており、各国の送り出し機関は人員確保に苦労している状況です。
日本は「選ばれない国」になりつつあるのです。今後、アジアから日本に来る人材は「アニメなど日本の文化が好きで日本に憧れている若者」と「他国に行くための選考に漏れ、仕方なく日本にやってくる若者」に絞られると考えられています。
日本で働きたいアフリカ人材
一方、アフリカの若者は日本で働く意欲を持っています。現在、高学歴の若者は欧米で就職していますが、日本への関心も高まりつつある状況です。
日本が選択肢に加われば、優良人材を継続的に確保することができるでしょう。実際、日本の受け入れ機関がガーナで募集をかけたところ、瞬時に優秀な人材が数十人集まったという話もあります。
失踪するアジア人技能実習生
出入国在留管理庁によると、令和6年度に失踪した技能実習生の数は6510人。前年から3243人減少したものの、数の多さに驚く声が上がっています。失踪者の割合は令和4年2%、令和5年1.9%、令和6年1.2%と改善がみられていますが、ベトナム・ミャンマー・インドネシア・中国からと、アジア人技能実習生が失踪者数上位を占める状況は変わりません。

日本政府は各送り出し国政府に問題解決を要求しており、フィリピンなどいくつかの国は厳罰化の方向に進み効果が出ています。しかしまだまだ緩い国も多く、厳しい状態は今後も続くと考えられています。
失踪の原因
技能実習生失踪の原因として、出入国在留管理庁は次のように分析しています。
技能実習生の失踪動機は様々ですが、その要因となり得るものとして、例えば、・ 技能実習生に対して暴行等の受入れ機関側の不適正な行為があった場合・ 来日前に本人が想定していた技能実習の内容等と実態のミスマッチがあった場合などが考えられます。
筆者が技能実習生や在留外国人から直接聞いた話をまとめると、次のような実態があるようです。
失踪をそそのかすブローカーが存在しており、技能実習生本人に直接連絡し失踪の手引きをすることがある。
失踪を目的に入国する者がいる。
技能実習生になるために多額の借金を抱える者が多く、家族への仕送りと借金返済で苦しみ、より良い条件を求めて失踪してしまう。
失踪しにくいとされるアフリカ人材
アフリカの技能実習制度は始まったばかり。現在数人しか日本に滞在しておらず、技能実習生の「横の繋がり」が形成されていません。日本在留のアフリカ人は2024年12月現在で25,283名。これはアフリカ54カ国すべてを合わせた人数で、在留数最多の中国人873,286名と比べるとごく少数であることがわかります。
育成就労制度による問題
技能実習制度は2027年に育成就労制度に移行されます。技能実習制度の目的は「途上国への技術移転」であり、実態とかけ離れた制度であることが問題視されていました。そこで育成就労制度では目的を「人材確保」と明確化。来日する若者が日本で働きやすいよう、様々な制度を変更しました。

育成就労制度では、外国人労働者の転職や職場変更が可能となります。一定の条件を満たすことが前提ですが、受け入れる現場からは「人材が定着しなくなる」と不安の声が上がっているのです。なぜでしょうか。
人材が定着しないという不安
現在の技能実習制度では転職や職場変更ができないため、実習生は条件の悪い職場でも我慢しなければならず、失踪の原因にもなっています。そこで、育成就労制度では職場を変更することを可能としました。外国人労働者の労働環境改善が期待されています。

その一方で、外国人労働者の転職や職場変更が可能になることに危機感を抱く現場があります。それは都市部から遠く離れた地方の事業所や、技能実習生の確保がしにくい農業・建設業分野の受け入れ会社です。「仕事や生活に慣れ、これからという時に転職されるのは困る」「やっとの思いで田舎に来てもらっても、同じ職種が都会にもあることがわかればそっちに行ってしまうのでは」「都会に出る足掛かりにされて、苦労して呼んだ甲斐がなくなる」と不安が広がっているのです。
農業・建設業に真面目に取り組むアフリカ人材
農業や建設業に就くアジアの技能実習生は増加しているものの、頭打ちになる日は近いと言われています。アジア各国の送り出し機関はこの分野の人材集めに苦労しており、希望分野で日本に行けない人材が渋々農業や建設業に就く、という話もあるほど。そのせいか失踪のリスクも高く、定着しにくいことが問題となっています。そんな中、注目されているのがアフリカ人材です。例え農業や工業が専門外であっても、真面目に取り組む姿が高く評価されています。

不法就労の多くは建設業と農業で発生しています。


2025年9月現在、アフリカからの技能実習生はガーナから1名のみ。九州の建設業に従事しており、真面目に作業をすると受け入れ会社から信頼される存在です。ガーナでは教師として暮らし、月給は約2万円。日本で働いてお金を貯め、ガーナで病院を建てるのが夢だと語っています。建設業は専門外ですが、日本語を勉強して来日し、現場できちんと技術を習得しました。
アフリカ人材の強み
アフリカ人材には、様々な強みがあります。高いコミュニケーション能力、問題解決能力、そして豊富な若い力。筆者はタンザニアで1年暮らし、現地の人々と共に働いた経験があります。その時に実感した事柄を中心に、アフリカ人材の強みについてまとめてみました。


コミュニケーション力
アフリカには1,500とも3,000とも言われる多様な民族が共存し、様々な文化が混在しています。すぐ隣に自分と異なる文化や言語がある状態なので、アフリカの人々は異文化を理解する能力に優れ、コミュニケーション力も高いと言われています。
タンザニアでは、家庭では部族の言葉、学校や職場では英語と公用語のスワヒリ語、日常生活ではスワヒリ語と、上手に使い分けて生活しています。この状況は、アフリカの他の国々も同様です。アフリカの人々はいくつもの言語を習得しているため、日本語などの新しい言語にも慣れやすいと考えられています。
かつての宗主国の言語が根付いている
アフリカはかつてヨーロッパ諸国によっていくつかに分断され、植民地として統治されていました。かつての宗主国が使っていた言語は、アフリカ各国で公用語となっています。例えば、ケニアやタンザニアなど22カ国は英語、ニジェールやセネガルなど19カ国はフランス語、モザンビークやコンゴ共和国など5カ国がポルトガル語が公用語です。
アジア人材の言語は日本にとってマイナーなものが多く、英語が通じないケースもよくあります。その一方、アフリカ人材は英語やフランス語などが通じるため、言語の壁が低いと感じる日本人が多いようです。
問題解決能力
タンザニアで仕事をしていた時いつも感心していたのが、彼らの問題解決能力の高さ。材料がなければ代わりのものを探し出して作り上げ、情報が無ければ人脈を駆使して何とか収集します。時間にルーズな面もありますが、何が何でも仕上げてしまう姿勢に頼もしさを感じていました。
市場には、廃タイヤを切ってあっという間に作り上げた靴がならんでいます。日本人には思いもよらない発想力があり、靴が無ければ身近な材料で作ってしまう姿に感動したものです。



実際にタイヤで作った草履です。


若く優秀な人材の多さ
アフリカは、地球上で最も若い世代の人口が集中している地域です。高等教育を受けた若く優秀な人材がとても多く、それが強みとなっています。国連はサハラ以南のアフリカについて、人口の7割が30歳未満であると述べました。
アフリカ各国で衛生状態が改善し、各種インフラも整いつつあるため、今後も人口増加が予想されています。欧米諸国は早くからアフリカ人材のポテンシャルに注目しており、既に多くの優秀なアフリカ人を雇用しています。日本にとっても、若く優秀な若者が多いアフリカは、とても魅力的なのです。
増え続けるアフリカの人口
アフリカの人口は現在約15億人。今後10年ごとに3億人ずつ増加する見込みで、2050年には25億人になる予定です。その一方、アジアの人口は2060年ごろから減少に転じ、南北アメリカやヨーロッパは横ばいと予測されています。
世界の多くで進む高齢化
日本はもちろん、多くの国は高齢化社会による人材不足の状態に陥っています。内閣府によると、世界の高齢化率(人口に対する65歳以上の割合)は、1950年は5.1%、2020年は9.3%でしたが、2060年には17.8%になると予想されており、世界は今後急速に高齢化が進むと考えられています。


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アフリカとは
ご存知の通り「アフリカ」とは国名ではなく、大陸の名称です。
アフリカ大陸は国際的に承認された54カ国で構成されており、その文化や社会は実に様々。日本ではまだまだなじみの薄いアフリカの概要を知り、人材確保に役立てましょう。


アフリカ大陸の概要
ユーラシア大陸に次いで大きいアフリカ大陸。サハラ砂漠を境に「北アフリカ」と「サハラ砂漠以南アフリカ(サブサハラアフリカ)」に分けられています。ここではさらに掘り下げて、「北部アフリカ」「西部アフリカ」「東部アフリカ」「中部アフリカ」「南部アフリカ」に分類し、それぞれの特徴をまとめました。


出典 JICA:数字と地図でひもとくアフリカ
北部アフリカ
サハラ砂漠より北の地域を北アフリカと呼びます。地中海の南岸に面した国々で構成されており、沿岸部は地中海性気候、内陸部は乾燥地帯が広がっています。イスラム教が盛んで、アラブ人やベルベル人が多く暮らしています。
西部アフリカ
アフリカ大陸の西側の地域で、その多くはフランスの植民地でした。南北に長い地域で、沿岸部は大西洋に面しています。北側から熱帯雨林、サバンナ、ステップ、砂漠などの気候が分布しています。
250を超える多種多様な民族が暮らし、カカオ豆やコメの生産が盛んです。西部アフリカのガーナには、野口英世の功績を称えて建設された野口記念医学研究所があります。
東部アフリカ
アフリカ最高峰キリマンジャロを有する東側の国々で、イギリス・フランス・ドイツ・ポルトガルなどの植民地でした。沿岸部はインド洋に面しており、イスラム教の影響が高いスワヒリ文化が浸透しています。
「マサイ族とサバンナを走る野生動物」といった日本人が思い描くアフリカの風景は、東アフリカのもの。他にキクユ族やマコンデ族など数多くの民族が暮らしています。
中部アフリカ
アフリカ大陸の中央部分に位置する赤道直下の国々です。熱帯雨林気候が大部分で世界最大級の森林資源がある一方、砂漠化の進む地域もあります。
バントゥー系民族を中心に数百の民族が混在。多様な文化を形成しています。石油や鉱物資源も豊富です。
南部アフリカ
アフリカ大陸の南部に位置する地域で、すべての国が南半球にあります。宝石や金、レアメタル、石油、天然ガスなど貴重な資源を豊富に埋蔵。世界最古の民族と言われるサン族や世界一美しいヒンバ族はじめ、多様な民族が共存しています。白人系やアジア系民族も数多く暮らしています。
日本におけるアフリカの重要性
国連加盟国193カ国のうち25%以上を占めているアフリカ54カ国。国際会議などの場で決議を左右する大きな勢力となっているため、日本と同じ価値観の国を一つでも多く増やす必要があります。
また、アフリカには石油や天然ガス、各種レアメタルや宝石など貴重な鉱物資源が豊富で、例えばコバルトとマンガンの埋蔵量は世界の半数近くを占めています。日本にとってアフリカ諸国はとても重要なパートナーなのです。
まとめ
「最後のフロンティア」として世界中から注目されているアフリカの国々。近年目覚ましく発展しており、2025年の経済成長率は4.2%と世界平均よりも高い数値を示しています。その原動力となっているのは、広大な土地に眠る多種多様な資源と高い人口増加率。労働力不足の問題を抱える国々は、アフリカの若い人材に魅力を感じているのです。日本も同様に、人材も資源もアフリカに頼らざるを得ない状況に直面しています。日本におけるアフリカ人雇用は始まったばかり。より良い人材を継続的に確保するため、今すぐ検討することをおすすめいたします。
参考資料
JETRO:日本の外国人労働者は過去最高の230万人、最多はベトナム人の57万人
法務省:技能実習生の失踪者数の推移
出入国管理庁:技能実習生の失踪防止対策について
e-Stat政府統計の総合窓口:2024年12月国籍・地域別 在留資格別 在留外国人
厚生労働省:育成就労制度の概要
国連:若者の潜在力がアフリカの持続可能な開発の鍵
内閣府:2 高齢化の国際的動向
内閣府:高齢化の現状
日本経済新聞:日本の労働力不足、タンザニアから受け入れを 駐日大使が提案
KKB鹿児島放送:【日本初ガーナからの技能実習生】深刻な人手不足の救世主?でも・・・制度変わる外国人材受け入れ News+おやっと!特集(1月8日(水)放送)
JICA:数字と地図でひもとくアフリカ
この記事の監修者


大学卒業後、経営コンサルティング会社に入社し、企業の経営支援に携わる。その後、dodaを運営するパーソルキャリアにて、様々な方の転職支援に従事。その経験を活かし、株式会社JINにて、人材事業を開始。