
外国人雇用を本音で語る「リクアジの編集部」の上田です。本日のトピックはこちら!
・時給制はOKだが、3つの重要ルール
・技能実習生のアルバイト・副業は法律で禁止
・違反すれば企業も実習生も重い罰則が科される
「技能実習生の給料は、アルバイトのように時給で計算しても問題ないのだろうか?」労働時間が月によって変動しやすい業種では、時給制のほうが管理しやすいと感じるかもしれません。
結論からお伝えすると、技能実習生の給与を時給制にすることは法律上、問題ありません。しかし、多くの企業が月給制を採用しているのには理由があります。また、時給制を選ぶ場合には、絶対に守らなければならない重要なルールが存在し、これを知らないと法律違反や思わぬトラブルに繋がりかねません。
この記事では、技能実習生の給与体系について、自信を持って判断できるよう分かりやすく解説します。

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結論:技能実習生の給与は「時給制」でもOK
改めて結論ですが、技能実習生と雇用契約を結ぶ際、給与形態を時給制にすることは法的に可能です。
労働基準法では、賃金は「通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められており(賃金支払いの五原則)、支払い形態(月給、日給、時給など)自体に制限はありません。

ただし「月給制」が一般的で推奨されている
法的に可能であるにもかかわらず、多くの受け入れ企業が「月給制」を採用しています。それには、技能実習生側の視点に立った理由があります。
技能実習生は母国の家族へ仕送りしながら生活しており、時給制では祝日や稼働減により収入が不安定になりやすい傾向があります。安心して生活し実習に集中してもらうには、毎月の収入が安定する月給制が望ましいとされています。給与形態を決める際は、この点に十分な配慮が必要です。
❗建設業や農業では「時給制」の運用が多い実態も
技能実習生の給与は原則「月給制」が望ましいとされていますが、業種によっては「時給制」で運用されるケースもあります。
農業(季節性):農繁期と閑散期の差が激しく、時給制で調整しやすいという背景があります。
制度上は慎重な運用が求められますが、現場の実情に合わせて時給制が選ばれている例も存在します。

技能実習生を時給制で雇用する際の3つの重要ルール
もし、業務の都合などから時給制を選択する場合、以下の3つのルールを必ず遵守しなくてはなりません。これは企業の義務であり、技能実習制度の根幹に関わる重要なポイントです。

【ルール1】「最低賃金」を必ず上回ること
これは最も基本的なルールです。技能実習生も日本の労働者であるため、労働基準法に基づく最低賃金が適用されます。最低賃金には2種類あります。
・地域別最低賃金:都道府県ごとに定められており、すべての労働者に適用されます。
・特定最低賃金:特定の産業について、地域別最低賃金よりも高い金額が設定されている場合があります。
両方が適用される場合は、高い方の金額を支払う必要があります。自社の事業所がある都道府県の最低賃金と、自社が該当する産業の特定最低賃金を確認し、時給額を設定してください。
【ルール2】日本人従業員との「同等以上の待遇」であること
技能実習法では、「技能実習生の報酬の額が、日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること」が厳格に定められています。これを「同等報酬の原則」といいます。
同じ仕事をしている日本人のパート従業員を時給1,200円で雇っているのに、技能実習生だけを最低賃金の時給1,000円で雇う、といったことは明確な法律違反です。
もし、同じ仕事をする日本人が社内にいない場合は、勝手に時給を決めて良いわけではありません。近隣の同業他社の賃金水準や、ハローワークの求人情報などを参考に、客観的なデータに基づいて「同等以上の報酬」であることを説明できる金額を設定する必要があります。
【ルール3】「割増賃金」を正確に支払うこと
時給制の場合、労働時間に応じた給与計算が基本ですが、法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えた労働や、休日・深夜の労働には、法律で定められた割増賃金の支払いが必要です。
・時間外労働(残業):時給 × 1.25倍
・休日労働:時給 × 1.35倍
・深夜労働(22時~翌5時):時給 × 1.25倍
例えば、時給1,200円の技能実習生が2時間残業した場合、その2時間分については「1,200円 × 1.25 = 1,500円」の時給で計算しなくてはなりません。これらの計算を怠ると、賃金未払いとして労働基準監督署から指導を受ける対象となります。
ただし技能実習生の時給アルバイトは原則禁止
給与形態の話とは別に、絶対に知っておかなければならないことがあります。それは、技能実習生が実習以外の仕事で収入を得る「アルバイト」や「副業」は、原則として一切認められていないということです。

「技能実習」はアルバイト目的の資格ではない
まず大前提として、「技能実習」という在留資格の目的を理解することが重要です。
技能実習制度は、日本の企業が先進的な技術や知識を開発途上国の人材に伝え、母国に帰った後にその国の経済発展に貢献してもらう「国際貢献」を目的としています。

技能実習制度の目的
日本で働きながらお金を稼ぐこと(就労)が主目的ではなく、あくまで日本の技術を学ぶこと(技能の習得・習熟)が目的です。この目的を達成するため、技能実習生は「技能実習計画」に基づいて、決められた時間、決められた業務内容の実習を行います。
そのため、計画外の業務であるアルバイトを行うことは、在留資格の活動範囲を逸脱する行為とみなされてしまうのです。「留学生はアルバイトできるのに、なぜ?」と疑問に思うかもしれません。
留学生の在留資格「留学」は、学業を行うことが本来の目的です。アルバイトは、その学業を続けるための学費や生活費を補う目的で、「資格外活動許可」を得ることで週28時間まで特別に認められています。
一方で、技能実習生は実習先企業と雇用契約を結び、給与を受け取って生活しています。そのため、留学生のように生活費のためにアルバイトをする必要はない、という考え方が基本にあるのです。

「資格外活動許可」は取得できる?
では、「留学生と同じように、資格外活動許可を取得すればアルバイトできるのでは?」という疑問が浮かびます。残念ながら、技能実習の在留資格では、この資格外活動許可は原則として許可されません。
出入国在留管理庁は、個々の事情に応じて許可を判断するスタンスを示していますが、技能実習制度の趣旨から、許可が下りるケースは極めて稀です。例えば、受け入れ企業が倒産してしまい、次の実習先が見つかるまでの生活を維持するため、といった本当にやむを得ない場合に限られます。
したがって、「人手が足りないから」「本人が稼ぎたいと言っているから」といった理由で許可が下りることはまずありません。副業としてのアルバイトも同様に認められないと理解しておきましょう。
技能実習生のアルバイトが発覚した場合の罰則
もし、ルールを破って技能実習生にアルバイトをさせたり、アルバイトとして雇ったりした場合はどうなるのでしょうか。
これは単なる「ルール違反」では済まされません。「不法就労」という重大な法律違反となり、関わった全員に厳しい罰則が科せられます。
受け入れ企業側が科される重いペナルティ
技能実習生に違法なアルバイトをさせた企業は、「不法就労助長罪(ふほうしゅうろうじょちょうざい)」という罪に問われます。
不法就労助長罪とは?(出入国管理及び難民認定法 第73条の2)
- 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
- 外国人に不法就労活動をさせるために、自己の支配下に置く者
- 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為または2の行為に関しあっせんした者
上記に該当する者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
この法律の最も厳しい点は、「知らなかった」という言い訳が通用しないことです。たとえ悪意がなかったとしても、在留カードの確認を怠るなどの過失があっただけで罪に問われる可能性があります。

技能実習生本人にも厳しい処分がある
不正なアルバイトに関わってしまった技能実習生本人にも、未来を閉ざすほどの厳しい処分が待っています。
- 技能実習の強制終了と帰国: 不正行為が認定されると、技能実習は中止となり、母国へ帰国(退去強制)させられる可能性があります。
- 在留資格の更新・変更が不許可に: たとえ帰国を免れても、在留期間の更新や、技能実習2号・3号への移行、さらには将来的に「特定技能」など別の資格への変更も絶望的になります。
日本で技術を学び、家族に仕送りをし、将来の夢を描いていた本人にとって、これはあまりにも重い代償です。軽い気持ちで始めたアルバイトが、人生を大きく狂わせてしまうのです。
監理団体にもペナルティがある
技能実習制度は、受け入れ企業と実習生だけでなく、「監理団体」という組織が監督・支援する体制になっています。もし、監理下の企業で不法就労が発覚すれば、その監督責任を問われ、監理団体自体も厳しい処分を受けます。
・業務改善命令
・業務停止命令
・許可の取り消し
最も重い「許可の取り消し」となれば、その監理団体は事業を継続できなくなり、所属するすべての技能実習生や受け入れ企業に多大な影響が及びます。


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【要注意】給与設定でよくある間違いとトラブル事例
最後に、技能実習生の給与設定において、意図せず法律違反を犯してしまいがちなケースをいくつかご紹介します。「知らなかった」では済まされない重要なポイントです。
ケース1:「研修期間」だからと最低賃金以下にする
「まだ仕事を覚えていない研修期間だから」という理由で、最低賃金よりも低い時給を設定することはできません。技能実習生は入国したその日から労働者であり、最低賃金が適用されます。
ケース2:家賃や水道光熱費を給与から一方的に天引きする
社宅の家賃や食費、水道光熱費などを給与から控除(天引き)すること自体は可能ですが、それには必ず「労使協定」の締結が必要です。実習生本人から同意書を取るだけでは不十分で、労働者の過半数を代表する者との書面による協定を結んでいない一方的な天引きは違法です。
また、控除額も実費を大幅に超えるような不当な金額であってはなりません。
ケース3:残業代を「固定残業代」として曖昧に支払う
「残業代は毎月一律〇万円」といった固定残業代(みなし残業代)制度を導入すること自体は可能ですが、運用は非常に厳格です。
・何時間分の時間外労働に相当するのかを明確にすること
・通常の賃金部分と固定残業代部分を明確に区別すること
・固定時間を超えた分の残業代は、追加で支払うこと
これらの要件を満たしていない場合、固定残業代は無効と判断され、残業代の全額未払いとみなされるリスクがあります。
まとめ
今回は、技能実習生を時給制で雇用する際のルールと注意点について解説しました。結論として、時給制は法律上問題ありませんが、生活の安定という観点からは月給制が推奨されます。
時給制を導入する場合は、「最低賃金の遵守」「日本人との同等待遇」「割増賃金の支払い」という3つのルールを必ず守る必要があります。また、家賃の天引きや固定残業代の導入には明確なルールがあり、安易な運用はトラブルの原因になります。
給与は、実習生が安心して生活し、実習に集中するための土台です。適正な運用は企業の信頼にも直結します。少しでも不安がある場合は、自己判断せず専門家への相談をおすすめします。
この記事の監修者

大学卒業後、経営コンサルティング会社に入社し、企業の経営支援に携わる。その後、dodaを運営するパーソルキャリアにて、様々な方の転職支援に従事。その経験を活かし、株式会社JINにて、人材事業を開始。