
物流業界の巨人、ヤマト運輸がベトナム人運転手500人を雇用する。このニュースは、人手不足に悩む全業界の外国人採用戦略に新たな潮流を生み出しました。注目すべきは、単なる頭数合わせではない「1年半をかけた育成プログラム」という本気度。
国内の人材確保が限界を迎える中、企業はもはや海外へ活路を見出すしかありません。この事例は、給与水準や労働環境など、日本の労働市場がグローバル競争に突入したことを示唆しています。外国人材の育成・定着に「本気で投資する」という決断から、人事・経営層が今すぐ学ぶべき戦略を徹底解説します。
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ヤマト運輸が挑む外国人採用の「本気度」
2025年11月、ヤマト運輸が投じた一石は、日本の産業界全体に大きな問いを投げかけました。ベトナムのIT最大手FPTコーポレーションと提携し、5年間で約500人ものベトナム人大型トラックドライバーを採用・育成するという計画です。

これは、単なる人手不足対策を超えた、企業の未来を左右する「戦略的投資」に他なりません。
物流「2024年問題」解決の切り札
この大規模な外国人採用の背景には、待ったなしの深刻な課題があります。それが「物流の2024年問題」です。
2024年4月から、トラック運転手の時間外労働の上限が年間960時間に制限されました。これにより、ドライバー1人あたりの走行距離が短くなり、輸送能力の不足が深刻化しています。
この規制強化は、ドライバーの労働環境改善という側面では必要不可欠なものです。しかし、ただでさえ人手不足の物流業界にとっては、供給網の維持すら困難になりかねない大問題です。
さらに、日本の大型トラックドライバーの平均年齢は50.9歳と全産業平均より約7歳も高く、高齢化が著しく進んでいます。若い担い手が入ってこない一方で、ベテランドライバーが次々と引退していく。この構造的な問題を解決しなければ、日本の物流は立ち行かなくなります。
国内の若者が運送業を選ばない理由(給与、労働環境、社会的イメージなど)を根本から変えるには時間がかかります。そこでヤマト運輸が打った手が、グローバル市場からの人材確保、すなわち外国人採用だったのです。

外国人採用がもたらす労働市場の変化
このヤマト運輸の決断は、日本の労働市場が新たなフェーズに入ったことを象徴しています。
これまで、人手不足が起これば「給与を上げて日本人を採用する」のが基本的な解決策でした。しかし、ヤマト運輸は別の道を選びました。日本人ドライバーの給与を大幅に引き上げるのではなく、海外から優秀な人材を「育成」するコストをかけても、そちらの方が経営戦略として合理的だと判断したのです。
厳しい見方をすれば、日本の労働市場の「価格」が、国際的な相場で決まり始めているということです。この流れは物流業界にとどまらず、人手不足に悩む介護、建設、製造、外食など、あらゆる業界に波及していく可能性を秘めています。
500人雇用計画の全容と特定技能の活用
ヤマト運輸の計画は、年間100人、5年間で合計500人という規模感もさることながら、その「仕組み」にこそ注目すべき点があります。
特定技能と企業側の投資
特定技能とは2019年に新設された在留資格(ビザ)の一種です。深刻な人手不足が認められる特定の産業分野において、即戦力となる技能と日本語能力を持つ外国人の就労を認める制度です。

今回のケースで使われるのは「特定技能1号」です。この資格の特徴は以下の通りです。
- 就労期間: 通算で最長5年間。
- 技能水準: 相当程度の知識または経験が必要。
- 日本語能力: 基本的な日本語が理解できるレベル(N4程度)が必要。
- 家族帯同: 原則として認められない。
ここで重要なのは、ヤマト運輸が「最長5年」という期限付きの在留資格に対し、1人あたり「1年半」もの育成期間という莫大な先行投資を行っている点です。
「それほどまでに人手不足が深刻である」という現実と、「5年後には制度が変わり、さらに長期で働けるようになる(特定技能2号への移行)かもしれない」という期待が込められているからです。
外免切り替えでドライバーを確保
ドライバー採用で一つのハードルとなるのが「運転免許」です。今回の計画では、「外免切り替え(がいめんきりかえ)」という制度を活用します。
外国で取得した有効な運転免許証を、日本の運転免許証に切り替える手続きのことです。知識や技能の確認は必要ですが、ゼロから教習所に通うよりも短期間で日本の免許を取得できる可能性があります。
ヤマト運輸の計画では、ベトナムで免許を取得した人材が、日本で留学生として滞在する1年間のうちに、この外免切り替えを経て大型自動車第一種運転免許を取得することを目指します。
育成プログラムの中に免許取得支援まで組み込むことで、入社後スムーズに現場で活躍できる体制を整えています。

連携企業FPTの役割
今回のスキームで重要な役割を担うのが、ベトナムのIT最大手「FPTコーポレーション」です。なぜ物流会社がIT企業と?と疑問に思うかもしれません。
FPTグループはベトナム国内で大規模な教育機関を運営しており、特にIT分野や日本語教育において高い実績を持っています。
・優秀な人材へのリーチ: ベトナムの優秀な若者(特にITや工学系)が集まる教育機関を通じて、質の高い候補者を募集できます。
・高度な教育ノウハウ: FPTが持つ日本語教育や専門教育のノウハウを活用し、ヤマト運輸が求めるレベルまで人材を引き上げます。
単なる人材紹介会社ではなく、現地の教育機関とタッグを組むことで、「採用」の段階から「育成」をスタートさせているのが、この戦略の核心です。
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長期育成モデル:入社前から日本で働くまで
外国人採用において、多くの企業が直面する課題は「早期離職」や「スキルのミスマッチ」です。ヤマト運輸の戦略は、この課題を「入社前教育」で徹底的に潰し込むモデルと言えます。

ベトナムでの半年間特別クラス
まず、採用候補者はベトナム国内にあるFPTグループの教育機関で、半年間の「特別クラス」を受講します。
- 日本語教育: 日本語能力試験N4レベル(基本的な日本語を理解できる)を目指します。
- 日本文化学習: 日本の生活習慣や文化の基礎を学びます。
- 安全学習(基礎): ヤマト運輸が監修した、運転ルールや安全意識に関する基礎教育を受けます。
- 特定技能試験の受験: 自動車運送業分野の特定技能1号評価試験を受験します。(※日本留学後の場合もあり)
来日前にこれだけの基礎を固めることで、日本に来てからの「こんなはずじゃなかった」というギャップを最小限に抑え、即戦力化へのスピードを早めます。
来日後の日本語・安全学習
ベトナムでの半年間の教育を終えた候補者は、次に「留学生」として日本に入国します。ここからさらに1年間、FPTジャパンの日本語学校で学びます。
- 日本語教育(応用): 日常会話を超え、業務で必要なコミュニケーションが取れるN3レベルを目指します。
- 安全学習(応用): ヤマト運輸監修のもと、より実践的な日本の交通ルールや安全運転技術を学びます。
- 運転免許取得: 「外免切り替え」の手続きを経て、日本の大型自動車第一種運転免許を取得します。
合計1年半。これはもはや「採用」ではなく「育成」です。この手厚い教育プログラムこそが、外国人採用における「定着」と「活躍」の鍵を握っています。
徹底した定着支援と就労期間
1年半の準備期間を経て、ようやく2027年頃からヤマト運輸へ入社となります。
入社後は、まずヤマト運輸独自の「社内運転免許」を取得し、その後、特定技能外国人として拠点間輸送(宅配ではなく、長距離の幹線輸送)を担う大型トラックドライバーとして、最長5年間従事します。
ヤマト運輸は、入社後も安心して日本で生活し働ける環境整備や、ドライバーとしての成長支援を行うとしており、単に働かせるだけでなく、企業の「一員」として受け入れる体制を構築しています。
事例から見る、外国人採用が企業にもたらす論点
ヤマト運輸のこの大胆な戦略は、外国人採用を検討するすべての人事・経営担当者にとって、重要な「論点」を提示しています。
外国人材への投資とコストメリット
最も大きな論点は、「コスト」に対する考え方です。
- 日本人採用の場合:給与水準を大幅に引き上げ続ける必要があります。これは恒久的なコストアップにつながります。
- ヤマトの外国人採用モデルの場合:初期投資(1年半の教育コスト)は莫大です。しかし、一度育成の仕組み(スキーム)を作ってしまえば、一定のコストで安定的に人材を確保できる可能性があります。
ヤマト運輸は、「目先の給与引き上げ合戦よりも、長期的な人材育成への投資の方が、結果的にコストメリットがある」と判断したわけです。
国内労働市場の「国際相場化」
前述の通り、この動きは日本の「給与のあり方」に影響を与えます。これまでは「日本人だからこの給与」「外国人実習生だからこの給与」といった区別が存在しました。
しかし、特定技能制度では「日本人と同等以上の報酬」が義務付けられています。ヤマト運輸が育成したベトナム人ドライバーが、日本人ドライバーと同等、あるいはそれ以上に活躍した場合、企業が「日本人であること」を理由に高い給与を払い続ける合理性は失われていきます。
つまり、「スキルや生産性」が国籍に関係なく評価され、給与が決まる時代。まさしく労働市場のグローバル化(国際相場化)が、私たちの足元で始まっているのです。
なぜ特定技能「1号」で動くのか
人事担当者であれば、「なぜ最長5年の1号なのか?」と疑問を持つはずです。5年で帰国してしまうリスクを抱えながら、1年半も投資するのは非効率に見えます。これには2つの背景があります。
- 制度上の制約:現在(2025年11月時点)、自動車運送業は特定技能2号の対象分野に含まれていません。(※特定技能2号:熟練した技能が求められ、在留期間の更新に上限がなく、家族帯同も可能。永住権取得への道も開かれる)つまり、現行制度上では「1号(最長5年)」で採用するしかないのです。
- 将来への期待と切迫感:ヤマト運輸は「今後制度が変更されれば就労期間が延長される可能性がある」としています。これは、将来的に自動車運送業が2号の対象になることへの期待の表れです。しかし、それ以上に「制度の変更を待っていられないほど、現場の人手不足がエグい」という切迫感の表れでもあります。
5年後のリスクを承知の上で、それでも今、動く。この決断こそが、日本の人手不足の深刻さを物語っています。
まとめ:日本企業が「日本人だけ」で回せる時代の終わり
ヤマト運輸によるベトナム人ドライバー500人の採用計画は、日本の産業界における歴史的な転換点です。これは、日本企業が「日本人だけ」で事業を回せる時代が、明確に終わりを告げたことを意味します。
そして、これからは「いかにグローバルに人材を確保し、どう育て、どう定着させるか」が、企業の競争力を直接左右する時代に入ったことを示しています。外国人採用は、もはやコスト削減のための「裏技」ではありません。企業の未来を支える「経営戦略そのもの」です。
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