
貴社で活躍する外国人材が、ある日突然、出社できなくなる。そんな事態を想像したことはありますか?今、日本政府の方針転換により、外国人の「強制送還」が急増しています。
これは、不安定な立場にある外国人だけの問題ではありません。適正な手続きを踏んでいるつもりの企業にとっても、採用した人材を失う深刻なリスクとなり得ます。この記事では、最新の動向とその背景、そして人事・採用担当者が知っておくべき法的リスクと具体的な対策を解説します。

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なぜ今、外国人の「強制送還」が急増しているのか?
2024年の夏以降、日本に在留する外国人の強制送還が急増しているというニュースが報じられています。これまで外国人採用に積極的に取り組んできた企業にとって、この動きは決して他人事ではありません。
まずは、この背景に何があるのかを正確に理解しましょう。

政府の新方針「不法滞在者ゼロプラン」とは
今回の強制送還急増の大きな背景には、2024年5月に出入国在留管理庁(以下、入管)が発表した「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」があります。
このプランは、その名の通り不法滞在者をなくすことを目的としており、在留資格を持たない外国人への取り締まりや出国手続きを強化する内容です。これにより、これまで難民申請中などの理由で送還が一時的に停止されていた人々に対しても、送還手続きが加速しているとみられています。
政府の方針転換により、入管の運用がこれまで以上に厳格化されていると認識することが重要です。これは、外国人採用を行うすべての企業に関わる変化と言えます。
支援団体が指摘する送還の実態
実際に、外国人支援団体からは危機感を募らせる声が上がっています。
埼玉県の支援団体「在日クルド人と共に」によると、「ゼロプラン」発表以降、30人近くのクルド人が送還されたと報告されています。中には、日本で生まれ、日本の学校に通う小学生までもが含まれていたケースがあり、大きな衝撃を与えました。(出典:週刊金曜日)

また、パニック障害と診断され、日本での在留を求める裁判中だったネパール人男性が強制送還されるなど、個別の事情が考慮されにくい厳しい現実も明らかになっています。
これらの事実は、在留資格が不安定な状態にある外国人が、非常に厳しい状況に置かれていることを示しています。

外国人採用における「強制送還」の企業リスク
こうした社会情勢の変化は、外国人採用を行う企業にどのようなリスクをもたらすのでしょうか。人事・採用担当者として知っておくべき具体的なリスクを2つ解説します。
「採用した人材が突然いなくなる」可能性
企業にとって最大のリスクは、雇用している外国人従業員がある日突然、強制送還されてしまうことです。
たとえ採用時に在留カードを確認し、就労可能だと判断した場合でも、その後の在留資格の更新が不許可になったり、過去の申請内容に問題が見つかったりする可能性はゼロではありません。

特に、難民申請中の「特定活動」ビザで就労している人材の場合、申請が不認定となれば、速やかに帰国を求められます。企業としては、時間とコストをかけて育成した貴重な人材を、突然失うことになりかねません。これは事業計画にも大きな影響を与える、深刻な経営リスクです。
日本で生まれ育った人も送還対象という現実
「日本で生まれ育ち、日本語も堪能なのだから大丈夫だろう」という考えは、もはや通用しない可能性があります。
前述の通り、本人の意思に関わらず、親の在留資格の問題で、日本で生まれ育った子どもまで送還の対象となるケースが実際に起きています。
これは、外国人従業員が家族を帯同している場合に特に注意すべき点です。従業員本人の在留資格は安定していても、その家族が不安定な状況に置かれている場合、従業員の精神的な負担や、最悪の場合、家族と共に帰国せざるを得ない状況に陥ることも考えられます。
人事・採用担当者が今すぐ取り組むべき3つの対策
では、企業はこうしたリスクにどう備えればよいのでしょうか。変化の激しい時代だからこそ、基本に立ち返った堅実な対応が求められます。
対策①:在留資格の確認をこれまで以上に厳格に
最も基本的かつ重要な対策は、採用時および在留期間の更新時における在留資格の厳格な確認です。
- 在留カードの原本確認: コピーではなく、必ず原本を確認し、偽造や改ざんの形跡がないかチェックします。
- 就労制限の有無: 在留カードの裏面にある「資格外活動許可欄」も含め、自社での業務内容が就労可能な範囲に含まれているかを細かく確認します。
- 在留期間の管理: 従業員一人ひとりの在留期間をデータで管理し、更新時期が近づいたら本人に通知する仕組みを構築します。
不法就労は、外国人本人だけでなく、雇用した企業側も「不法就労助長罪」という重い罰則の対象となります。コンプライアンス遵守は、企業自身を守るための最低限の義務です。
対策②:採用後のフォローと相談体制の構築
採用して終わり、ではなく、採用後の継続的なフォローが人材の定着とリスク管理に繋がります。
- 定期的な面談の実施: 業務上の悩みだけでなく、在留資格に関する不安や生活上の困りごとなどをヒアリングする機会を設けます。
- 相談窓口の設置: 人事部内や、信頼できる外部機関と連携し、専門的な相談ができる窓口を用意します。
- 情報提供: 在留資格の更新手続きに関する情報や、地域の生活情報などを提供し、日本での生活をサポートする姿勢を示します。
外国人従業員が安心して働ける環境を整えることは、エンゲージメントを高め、生産性向上にも繋がります。何より、問題が大きくなる前に兆候を掴み、先手を打つことが可能になります。
対策③:専門家と連携し、法的リスクを回避する
入管法は非常に専門的で、頻繁に改正も行われます。自社だけの判断で進めることに不安がある場合は、迷わず専門家の力を借りましょう。
- 行政書士や弁護士への相談: 採用プロセスや在留資格の更新手続きに不安がある場合、ビザ申請を専門とする行政書士や弁護士に相談することで、正確かつスムーズな手続きが可能になります。
- 支援団体との連携: 外国人の生活支援を行うNPOなどと連携し、従業員のサポート体制を強化することも有効です。
専門家への相談費用はかかりますが、不法就労のリスクや人材流出のリスクを考えれば、必要な投資と言えるでしょう。

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まとめ
今回解説した外国人の強制送還の急増は、日本の労働力不足を補う上で重要な存在である外国人材との向き合い方を、企業に改めて問いかけています。
不安定な情報に惑わされることなく、企業ができることは、法令を正しく理解し、遵守すること。そして、共に働く仲間として外国人従業員に寄り添い、安定して働ける環境を提供することです。
この2つを徹底することが、予測不能なリスクから企業を守り、ひいては外国人材との長期的な信頼関係を築くための最も確実な道筋となります。