
「バスの運転手不足」は、今や多くの地域で交通インフラ維持に関わる深刻な経営課題です。この問題に対し、札幌市と「じょうてつバス」が行政主導で外国人留学生の育成を開始しました。

ミャンマー人候補者が「特定技能1号」を活用し、3年後のデビューを目指す全国的にも珍しい取り組みです。この記事では、運転手不足解消の新たな一手として注目される本事例の詳細と、外国人採用のポイントを解説します。
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深刻化するバス運転手不足の現状
全国的に公共交通機関を支える担い手が不足しており、北海道・札幌市も例外ではありません。地域住民の足をどのように守っていくか、待ったなしの状況が続いています。

札幌「じょうてつバス」の課題
札幌市の中心部と南区を主な運行エリアとする『じょうてつバス』では、運転手の減少が深刻な問題となっています。
同社川沿営業所の石黒所長によると、10年前に比べて運転手は30人から40人ほど減少しました。さらに、在籍する運転手の平均年齢は約54歳。6年も経てば多くのベテラン運転手が定年を迎えてしまうという構造的な課題を抱えています。
減便が市民生活に与える影響
運転手不足は、市民生活に直結する「減便」という形で影響を及ぼしています。実際にじょうてつバスを利用する市民からは、以下のような声が上がっています。
- 「仕事で利用するが、予定通りの時間に着かないことがある」
- 「車内が大変混雑しており、降りるのも一苦労する」
平日の昼間であっても混雑が発生しており、将来的な路線の維持すら危ぶまれる状況です。こうした背景から、従来の採用活動だけでは解決できない危機的な状況を打開するため、新たな人材確保の手段が求められていました。
運転手不足解消へ、札幌市が主導する新戦略
この難局を乗り越えるため、札幌市が打ち出したのが「外国人材の活用」です。

ミャンマー人留学生の採用
札幌市は、外国人留学生を将来のバス運転手候補として育成するプロジェクトを開始しました。
その第1期生として、ミャンマー出身のアウンさん(29)とフォンさん(24)の2名が採用されました。彼らは現在、日本語学校に通いながら、じょうてつバスの営業所でアルバイトとして勤務しています。
「特定技能1号」に対象分野が追加
今回の取り組みの背景には、在留資格制度の大きな変化があります。2024年4月より、外国人材の受入れ制度である「特定技能1号」の対象分野に、バス・タクシー・トラックなどの「自動車運送業」が新たに追加されました。

これにより、一定の専門性・技能を持つ外国人が、ドライバーとして日本で就労する道が正式に開かれたのです。
📌 ポイント:特定技能「自動車運送業」
特定技能での採用には、主に以下の要件が必要です。
- 所定の技能試験および日本語試験への合格
- 日本の運転免許(一種・二種)の取得
即戦力としての採用はハードルが高いものの、計画的な育成を行うことで、長期的な人材確保につながる可能性を秘めています。
手厚い行政支援。学費や免許取得費を補助
今回の札幌市の事例が注目される最大の理由は、行政による手厚いバックアップ体制にあります。

札幌市・バス会社・人材会社の連携
本プロジェクトは、札幌市、じょうてつバス、そして北海道アルバイト情報社の3者が連携して進められています。単に企業が外国人を採用するだけでなく、行政が積極的に関与することで、採用活動の信頼性と安定性が高まります。
全国でも珍しい「行政主導」の強み
通常、外国人採用にかかるコスト(渡航費、住居費、研修費など)は企業にとって大きな負担です。しかし今回、札幌市は以下のような思い切った支援を行っています。
- 生活費の一部補助
- 日本語学校の学費の半額補助
- 大型二種免許などの取得費用補助
札幌市都市交通課も「行政としてここまで外国人のバスドライバー育成に携わる例は、全国的に見てもあまりない」としており、地域一体となって公共交通を守るという強い意志がうかがえます。

【密着】運転手デビューまでの3年間
外国人材が日本のバス運転手として独り立ちするには、時間がかかります。今回のプロジェクトでは、「3年後のデビュー」を目標に、段階的な育成計画が組まれています。
日本語学習とアルバイトの両立
2024年4月に来日した2人の候補者は、まず日本語の習得に励んでいます。バス運転手には、乗客の安全を守るだけでなく、円滑なコミュニケーション能力も求められます。「日本語能力試験」への合格は必須条件です。

彼らは平日は日本語学校で学び、授業後はじょうてつバスの営業所でアルバイトをしています。業務内容は事務所の清掃や簡単な事務作業、乗客へのマナー呼びかけなどです。
こうして早期から職場環境に馴染み、日本人スタッフとの関係性を築くことも、定着率を高める重要な要素といえます。
現場でのコミュニケーションと受入体制
受け入れる現場側の体制整備も欠かせません。
じょうてつバスの指導担当者は、彼らの成長を温かく見守っています。文化や言葉の壁は当然ありますが、「ゆっくり焦らずやっていくことで覚えていってもらう」という姿勢で指導にあたっています。
大型二種免許取得というハードル
最大の難関は、日本の「大型二種免許」の取得です。
彼らはミャンマーの運転免許を持っていますが、まずは日本の普通免許への切り替えを行い、その後に大型二種免許の取得を目指します。
日本の交通ルールは複雑であり、さらに「二種免許」となれば、プロとしての高度な知識と技能が問われます。学科試験も日本語で受ける必要があるため、語学力と専門知識の両方が求められる険しい道のりです。
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外国人採用の懸念点と実際のところ
「外国人に日本のバスを安全に運転できるのか?」という懸念を持つ方もいるかもしれません。
日本語や交通ルールの習得
前述の通り、日本語でのコミュニケーションや、日本独自の交通ルールの習得は必須です。
候補者のアウンさんも「一番漢字が難しい」と語るように、語学の壁は決して低くありません。しかし、彼らは日々の業務やテキストでの学習を通じて、着実に理解を深めています。
最新機器による運転サポート
運転技術に関しては、技術の進歩も味方につけています。現在のバス車両には、バックモニターやボタン式シフトなど、運転操作を補助する最新機器が導入されています。
現場担当者も「大型二種免許と車両感覚さえ把握していれば、心配はない」と見ており、適切な訓練と最新技術の組み合わせによって、安全運行は十分可能であると判断されています。
まとめ:計画的な育成が成功の鍵
外国人バス運転手の採用は、即効性のある特効薬ではありません。しかし、3年、5年という中長期的な視点で見れば、深刻な人手不足を解消する確実な一手となり得ます。
成功のためには、行政の支援制度をうまく活用しつつ、受け入れ企業側が「育てていく」という覚悟を持って体制を整えることが重要です。
(情報ソース:HBCニュース北海道 2025/10/25配信)
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